第69章 桜と記憶と再会
桜は伝わる熱い体温に目を細めながら再び杏寿郎の耳に口を寄せる。
「では……、人生で最大のわがままを。杏寿郎さん、」
そう言うと桜は杏寿郎の胸を押して一度体を離した。
そして杏寿郎の頬に手を伸ばすとふわっと微笑む。
「この指輪を今世での私達の結婚指輪にして下さい。」
杏寿郎はそれを聞いて少し呆けた後 パッと顔色を明るくさせた。
杏「勿論だ!!すぐにでも式場をおさえて、」
「プロポーズじゃないです!結婚は早いです!!」
それを聞くと杏寿郎はお預けを食らった大型犬の様に眉尻を下げる。
その変わらぬ姿を見て桜は今世の杏寿郎が少し背伸びをしていたのではないかと思い微笑んだ。
「段階を踏みましょう。私は就職したばかりです。生活に慣れるまでは式の準備なんて余裕が無くてとても考えられません。それに私の父がショック死してしまう可能性があります。同棲の報告をしたら少なくとも1年は時間をおきましょう?」
久しぶりの諭すような口調を聞いて杏寿郎は桜が大正時代で背伸びをした結果少ししっかりした女性になったのだと悟った。