第69章 桜と記憶と再会
「杏寿郎くん。……耳、貸して。」
杏「…………ああ。」
桜は呼吸を落ち着かせてから屈んだ杏寿郎の耳に口を近付けると目を閉じた。
「…………ホテルで弾いた曲の名前は『愛の夢』。あなたを想って弾きました。」
「初めて惹かれたところは瞳です。とにかく真っ直ぐで、燃える炎のように情熱が溢れて……千寿郎くんに紹介されて初めて目が合った瞬間に『素敵な人だな』って思った。それは今世でも同じです。」
「この時代に戻る前、あなたに最後に言いかけてた言葉は『私もあなたを―――何回生まれ変わっても愛します。』」
そう言い終わると桜は杏寿郎の首に腕を回す。
桜はその時杏寿郎が鼻を啜る音を初めて聞いた。
杏「………………我儘を言う約束が残っているぞ。」
その声が思ったよりも鼻声で桜は思わず笑ってしまった。
すると杏寿郎は大人の余裕を忘れて眉を寄せ不満そうな顔をした。
杏「こんな時に茶化さないで貰いたい!!」
「茶化してないです!ただ、ただ……可愛いなあって思って……。」
そう言う桜の頬を新しい涙が次から次へと伝っていく。
杏寿郎はその言い方を懐かしく思うと毒気を抜かれて桜を抱き寄せた。