第69章 桜と記憶と再会
杏(日の出のこのぐらいの時間だった。あの時はもうすっかり花は散っていたが……此処で俺は桜にこの結婚指輪を…、)
杏寿郎はまだ色づく朝日の光が雲の隙間から差し込む満開の桜並木に着くと桜を下ろす。
そしてポケットに入れてあった指輪を取り出した。
息を切らす杏寿郎は何も言わずに手を差し伸べる。
「………………………………。」
桜は桜の木と共にざわざわと揺れる胸に右手を当てながら左手を差し出した。
その細い薬指へ杏寿郎が願いを込めるようにゆっくり指輪を通していく。
その時、より一層強い風が吹き、桜の木は大きな音を立て、そして靄が晴れるように雲も晴れると辺りは色付く温かい日の光で満たされた。
(…………………桜が……、咲いてる………
―――――――――……………あの時と違って…。)
桜はぽろぽろと大粒の涙を流し始めるとしゃっくりを上げながら今度は大きな指輪を杏寿郎の指に通した。
そして前にされたことを真似るように額を合わせる。
杏「桜、君……、」
「杏寿、……っ、きょ、うっ、……ひっく、」
杏「あともう少しだけ頑張って言葉にして貰いたかったが "君" だな!!桜ッ!!!」
その言葉に桜は何度も頷く。
すると杏寿郎は桜きつくきつく抱き締め、再び顔を覗き込んだ。
杏「桜、すごい量の涙が……、ああ、俺も泣いていたのか…。」
杏寿郎はそう言いながら桜の頬に落ちてしまった自身の涙と桜の涙を拭った。