第69章 桜と記憶と再会
杏「俺は君にぞっこんという事だ。君が誰と結婚しようと別れさせる気でいたくらいにはな。なので釣り合いなど考えなくて良い。」
「…………………………はい……。」
爽やかな声で放たれた不穏な言葉に桜はそう短くしか返せなかった。
それから杏寿郎は今夜は此処に泊まっていくようにと言い、下着もシャツも取り上げて洗濯機に放り込んだ。
帰る服を失った桜はその事に気が付かないまま杏寿郎に勧められて先に風呂に入り、大きな湯船に浸かった。
(ここの家賃いくらなんだろう…。子供いても過ごせそう……。子供、かあ。)
桜は子供の事を考えると何となく胸がざわざわとし首を傾げた。
(タイムスリップした先で何かあったのかな…あとで杏寿郎さんに、)
杏「桜、入るぞ。」
「ふえっ!!……えっ、あ……ぅ、」
許可をしていないのにさらりと入ってくる杏寿郎から目を逸らすと桜は上げた髪が湯につかないギリギリまで沈んだ。
それを見て杏寿郎は笑い声を上げた。
杏「時間短縮だ。君が湯船に浸かっている間なら此処を使っても構わないだろう?」
「あ……はい。時間短縮だったんですね…。変に意識し過ぎちゃった…ごめんなさい……。」
赤い桜がそう言って眉尻を下げると その言いくるめ易さを愛おしく感じた杏寿郎は満面の笑みにならない様に必死に自身を抑えた。