第69章 桜と記憶と再会
桜は顔を上げられなかった為 杏寿郎がどの様な表情をしているのか分からず、眉尻を下げながら小さな声で謝った。
実際の杏寿郎は眉を顰めて余裕の無い顔をしていた。
杏「そうか、まだ君は考えが甘いままなのだな。向こうでも随分と君の危うさにハラハラさせられた。これは記憶を取り戻すまで苦労するかも知れないな。」
桜は杏寿郎にそう呆れられ続けると 愛想を尽かされてしまうのではないかと心配になり、体の向きを変えて杏寿郎の胸に縋りつくように顔を埋めた。
「ごめんなさい。きちんと気を付けるので離れないでください。杏寿郎さんに釣り合うように……もっとしっかりした女性になるように頑張ります。だから…、」
杏寿郎はそのしおらしさに目を見開いた。
杏(釣り合う…歳差を気にしているのだろうか。)
杏「言い忘れていたが大正時代で俺は20歳だった。当時の君と同い年だ。そして俺はどちらの関係も好ましく感じている。桜、どちらの関係も知った上で俺は君を慕っている。」
そう言われると桜は埋めていた顔を上げる。
その顔は今にも泣きそうな表情であった。
杏「…………………………ああ、隠していたかったのだが……駄目だな。やはり愛らしい。」
「……………………え……?」
杏「いや、分からなかったのならそれで良い。」
桜の泣きそうな顔を見て杏寿郎が漏らしてしまった嬉しそうな黒い笑みに桜は首を傾げる。
一方、杏寿郎は "優しい良い大人" を演じ直すように桜の頭を撫でて宥め始めた。