第69章 桜と記憶と再会
(……………今の…、)
杏「桜?大丈夫か。」
「あ!はい!」
桜は頭をふるふると振ると寝室のドアを開けた。
杏「……………桜、君は……自覚はあるのか。」
その問いに右肩から今にもずり落ちてしまいそうなぶかぶかの部屋着を身に纏っている桜が困った様に首を傾げた。
すると杏寿郎は堪らず目を逸らす。
杏「…………危ないので袖と裾を捲った方が良いぞ。」
「あ…っ!はい!杏寿郎さんはいつも細かい所に気が付いてフォローしてくれますね。」
桜の体の華奢さを改めて実感させられ、更に支配欲を刺激された杏寿郎はズレた桜の発言に苦笑した。
杏「おいで。手伝おう。」
「ふふ、ありがとうございます。」
桜はソファに座る杏寿郎の膝の上にちょこんと乗ると何故か余裕無く片腕の袖を捲っていった。
一方、そこに来ると思っていなかった杏寿郎は一瞬固まったが 動揺を悟られないようにしながらもう片方の腕の袖を捲っていった。
(思い切って座ってみたけどお行儀悪いって怒られなくてよかった…。それにしても杏寿郎さんって本当に動じないなあ…。でも当たり前か…夫婦だったんだし、28歳だし……。)
杏「裾も捲くるので横向きになってくれ。俺の首に腕を回すと良い。」
杏寿郎は努めて余裕のあるような声色を出しながらそう言うと、桜を横抱きのような姿勢にさせて裾を捲っていった。
桜はただ穏やかに微笑む杏寿郎を見て少しだけ寂しさを覚えてしまった。