第13章 お館様
「す、すごい…景色がびゅんびゅん過ぎ去っていく…。」
この速度なら桜の姿など分からないだろう。
(それに意外にも揺れない!無駄な動きがないのかな…。)
そう思いながらもぞもぞと動いていると杏寿郎が声を掛けた。
杏「どうした!」
「あ!いえ!速いのに揺れないので、杏寿郎さんの体幹って本当にすごいなと実感していました!!」
杏「そうか!!」
そういう声の主はきっと今太陽のような笑顔を浮かべているのだろうけど、桜には杏寿郎の背中しかみえない。
首をひねって見上げても目に入るのは後頭部。
(本当に綺麗な髪だなあ…結ってるの意外かも。自分で結ってるところあまり想像できないな…。)
桜は快適な杏寿郎の肩の上で風に揺れる杏寿郎の髪の毛を、目を細めて見つめた。
――――――
いつまで経っても杏寿郎の速度が落ちない。
それが逆に心配になって桜は杏寿郎に話し掛けた。
「あの!休憩はいらないのでしょうか!!」
杏「む!そうだな!次に茶屋が見えたら休みを取ろう!!」
それを聞き ほっとした、が―――…
「ご主人!もう十本頂けるだろうか!!」
(杏寿郎さんまだ食べるの…!?)
人に見られないように店裏からこっそり様子を伺っていた桜は はらはらとしていた。
一人でお店を切り盛りしていると思われるおじいさんが、慣れない目まぐるしさに参っていたからだ。
(こ、このままじゃ杏寿郎さんがおじいさんを殺してしまう……。)