第66章 拗れる
杏「……そろそろお開きにしよう。次の日が休みだとは言え、女性があまり遅い時間に1人で帰るのは危険だからな。」
「あ……そうですね…………。」
桜は杏寿郎が送ってくれるのではないかと僅かに期待していた為、2年前を思い出して少し寂しくなった。
(今はただの同僚だもの。これも…よくある "仕事上の付き合い" というものなのかな……。)
「いたっ」
杏「一ノ瀬先生?どうした。」
桜はその日、新しい靴を履いてきていた。
それ故に靴擦れをしていたのだが、それを忘れて勢い良く立ち上がってしまったのだ。
「…い、いえ……、あの、大したことでは、」
杏「靴だな。全く…何故君はいつも隠すんだ。」
杏寿郎はそう言うと手早く勘定を済ませ、桜を横抱きにして店を後にした。
杏(気付けなかった。笑顔に目が行っていたからだろうか。)
桜は降りようとせず、只々横抱きにされた恥ずかしさから両手で顔を覆っている。
杏(……抵抗しないのか。コンビニで絆創膏を買って済まそうと思っていたが…、)
杏「…それほど痛ければ……俺の家へ来ると良い。此処から随分と近い。」
杏寿郎は婚約者がいるにも関わらず不自然なほどに無防備な桜が自身の提案を断る事を願いながらそう誘ってみた。
しかし杏寿郎に近寄ることを許されたと感じた桜はそれにすぐ何度も頷いてしまった。