第66章 拗れる
優「一ノ瀬さん、歩ける…?今日はもう帰った方がいいよ。……ここにも居ないほうがいい。」
「うん……。」
桜は再び涙を流したが素直に頷くとふらふらと立ち上がった。
それを見て杏寿郎も目を見開きながら立ち上がった。
桜が酒に負ける姿を見た事がなかったからだ。
天「別に払わなくていーよ、お前ほとんど食べてねぇし。早く行ってきな。」
杏「すまない、ありがとう!!」
杏寿郎が鞄を引っ掴んで慌てて追い掛けた先で桜は優介の腕の中に収まっていた。
桜がふらついてよろけたので優介が抱き留めたのだ。
だが杏寿郎から見ればただの婚約者同士の抱擁である。
杏(それに……、そちらは駅ではない。そちらに行っては桜は…帰れない。帰れなくなるほどに酔って…ああ、彼の、婚約者の家へ行く事を見越していたのか。泊まる事がもう珍しくないような関係になったという事は………桜はもう…………男を知っている…。)
杏寿郎は桜が学校近くに引っ越している可能性を失念してそう思ってしまった。
優介は桜をここまで酷く泣かせている張本人、杏寿郎の存在に気が付くと牽制するような目を向ける。
杏寿郎は実際に2人の様子を目の当たりにしてしまうとあまりの衝撃から優介の視線に何の反応も出来なかった。
そして、酷い喪失感と絶望感と共に2人を只々見送るとそのまま家へ向かったのだった。