第65章 流れる月日と二度目の再会
実「この一ノ瀬先生は "不死川先生" とは血も繋がってねぇし似てもねェ。そんなくだらねえ口実作って用もなく近付くな。俺の妹ではあるからなァ。きちんと覚えとけ!以上だ!!」
実弥はマイクを端の教師にバシッと返すとそのまま降りていき行冥に叱られていた。
(……?…………性別も違うし確かに似てないけど…何でわざわざあんな事を……皆びっくりしちゃってる。)
帰っていく実弥を目で追っていると油断した桜の視線が杏寿郎のそれとかち合う。
とうとう見てしまった。
(避けてたのに…大好きな瞳……。相変わらず綺麗だなあ。)
桜は少しだけ微笑んでから視線を外した。
―――
高等部だけの集まりになると桜は『物理を選択する予定の人は手を挙げて下さい。』と呼びかけ、人数の多さに目を輝かせた。
「改めまして、物理の一ノ瀬 桜です。物理を選択してくれる生徒さんがこんなにいて嬉しいです。物理は自然を式で表せちゃう素敵な学問だと思っています。皆も好きになってくれたら嬉しいです。」
物理は女生徒が少ない。
200人いる1学年の中でも5人いない程だ。
杏寿郎は桜の教える科目を知って頭を抱えていた。
杏(塾では数学や理科を教えていたので想定外だった。よりにもよって…。恐らく桜は年下に甘い。学生といえど高校生なら何があるか分からない…油断しないと良いのだが……。それにしても先程は驚いたな。微笑み掛けてくれるとは…。)
杏寿郎はこれからまた関係を築いていけるのではないかと僅かに期待を膨らませたがそれをすぐに左手に光っていた指輪が壊してしまう。
しかしプツッと何かが切れると薄く目を開いた。
杏(……まだ結婚はしていない。婚約ならまだ無かった事に出来る。いや、結婚していても離婚させれば良い。諦めなければ良い、それだけだ。)
そう思うと杏寿郎の耳は桜に関する周りの意見を一切拾ってくれなくなってしまったのだった。