第64章 消えない不安と拒絶
「えっ、あ、あのっ」
杏「足、痛いのだろう。何故隠していた。気を遣う必要はないんだぞ。」
「あ……ありがとうございます。でも、痛くなったのはついさっきです。少し痛いかも…くらいで……よく気が付きましたね。」
桜は驚き恥ずかしがりながらもとても嬉しそうな顔をしていた。
杏寿郎はその返事にほっと肩の力を抜く。
杏「そうか。まだ傷が付く前だと良いのだが…。次はきちんと合う靴も買いに行こう。これはヒールが高すぎる。君の身長がいつもと違ってそれはそれで面白かったが。それにしても君の足は小さいな。小人の靴のようだぞ。」
不思議そうに言う杏寿郎に桜は思わず笑ってしまった。
(もう、お付き合いしてしまおうか。そうしたらこの悪い事をしているような、沼にはまっていってしまうような気持ちはなくなるのかもしれない……。)
そんなことを考えていた時、塾講師の試験の結果が出て桜の採用が決まった。
―――
杏「最近 桜と会える週末がグッと減ってしまっている。塾の迎えさえも断られることが多くなった。むしろ最近は断られてしかいない。」
天「俺に言ってもどうにもなんねーよ。」
杏「それはそうなのだが……。」
初めて始めたアルバイトはすっかり軌道に乗って忙しくなり、帰る時間も不安定になり、桜は早苗に迎えに来てもらうようになっていた。
女性としては珍しく理系であった為に需要が高く、すぐに個人授業、集団授業共にたくさんのシフトを入れられたのだ。
そして教師を目指しているだけあって熱意があり、親御さんからの評判も良かった。