第64章 消えない不安と拒絶
―――
週末、2人は映画を観に行った。
杏寿郎は劇場で桜がコートを脱ぐと体の線が出ているニットを見てぎょっとした顔になった。
杏「今は良いが明るいところではコートを脱がないでくれ!!いや、俺が別の服を買おう!!」
映画を見終わると同じ施設内にある服屋を巡り、杏寿郎は真剣に服を選びだした。
するとスススッと目を輝かせている店員が近寄ってきて桜に耳打ちする。
店「格好良くて素敵な彼氏さんですね。普通女性の服選びって面倒くさがる男の人が多いんですよ。」
「え……っ」
(そうなんだ……。)
桜はすぐ嬉しそうに頬を緩ませると杏寿郎の側に駆け寄った。
「杏寿郎さん、適当でいいですよ。もう随分と長い時間、」
杏「妥協出来る筈がないだろう。死活問題だ。おいで、こちらの色が似合うと思うのだが…、いや、君はどの色も似合うのであったな。失念していた。」
そう言うと杏寿郎は候補を増やす。
その中にワインレッドのシャツを見付けると桜はそっと触れた。
「この色について教えていただけませんか。とても惹かれるんです。」
そう訊かれると杏寿郎は手早く他の服を元に戻してからレジへ向かった。
杏「君へ…初めて贈ったプレゼントがこの色のリボンだったんだ。君は毎日それでハーフアップに結っていて非常に愛らしかった。」
そう言いながら杏寿郎が優しく桜の髪を梳くとレジの店員と桜が頬を染めた。