第64章 消えない不安と拒絶
杏「やはり間に合わなかったのか。どこにいる?チャイムの音で逃げたか?」
「………………え……?」
杏「先程俺に電話したろう。妙な声を聞いた。男が押し入ったのではないのか。何か……されたのでは…、」
そう問われると "何か" については分からなかったものの大まかな事情を察した桜は真っ赤になった。
そして慌てて髪をほどいて結い直しながら杏寿郎を見上げる。
「杏寿郎さんのアイコンを見ようとしてた時にスマホを落としてベッドの下に滑らせてしまって…さっきまでずっとうんうん唸りながら取ろうとしてました…。こんな事でここまで来させてしまうなんて…、本当にすみません……。」
それを聞くと杏寿郎は桜を床に下ろしてしゃがみ込み、組んだ腕の中に顔を伏せて表情を隠してしまった。
杏「俺は君の身に…何かあったのかと………、本当に良かった。何も無かったのならそれで良い。」
その様子を見た桜は不安が綺麗に溶けていくのを感じた。
(こんな…こんなによくしてくれるなんて良い人に決まってる。杏寿郎さんは本当に優しい人なんだ。)
「ありがとうございます…。」
杏「スマホはどこだ?20分掛けても取れていないのだろう。俺が取ろう。」
「わ!やったあ。こっち側に滑っちゃって…、」
そう言いながら桜がベッドに上がって杏寿郎を手招きすると杏寿郎はその不用心さに苦笑した。