第64章 消えない不安と拒絶
(………え?杏寿郎さん……何でこんな時間に……。)
「……………………は、……はい……。」
桜は緊張と警戒から少し震える声を出した。
杏『桜!!開けてくれ!!!』
「…え、あの……、」
杏『頼む!!!』
桜は早苗の怒る顔がチラつき迷ったが杏寿郎の必死さに圧されて解錠ボタンを押した。
そして間もなく玄関のチャイムが鳴る。
桜が恐る恐る鍵を開けると杏寿郎はすぐに戸を開けて桜の様子を見た。
桜は僅かに涙目になって少し怯えた様子であり、結っている髪は不自然に乱れ、汗ばんでいた。
それを見た杏寿郎は絶望し、泣きそうな顔になった。
「え………………?」
杏寿郎は家の中に入るとすぐに桜を抱き締める。
そして冷静さを欠いてそのまま癖でさらっと桜を横抱きにした。
「わっ」
杏「すまない、失礼する。君の部屋はどちらだ。」
「あ、の…今さなちゃんいなくて…、だから……、」
杏「隠さないでくれ、頼む。」
杏寿郎の縋るような声を聞くと桜は眉尻を下げながら自室のドアを指差した。
杏寿郎は迷い無くそのドアを開けると綺麗に整頓されている部屋の中で唯一不自然に乱れているベッドの上を凝視した。