第64章 消えない不安と拒絶
杏「む?」
家に居た杏寿郎はバイブ音に首を傾げながらスマホを手に取るとパッと顔を輝かせる。
桜からの着信を報せる画面をタップしてすぐに出たが呼びかけても桜が返事をしない。
『んっ、ぅ…っ、…んむっ、ん"ーーーッ』
杏「桜……?どうした?」
布で押さえられたようにくぐもり、普通では出さない苦しそうな声に杏寿郎の首筋に冷や汗が流れる。
杏(声と共に軋むこの音……ベッドのスプリングの音ではないのか。)
脳裏に浮かんだ予感に心臓が嫌な音を立てると杏寿郎はすぐに車の鍵を持って電話を繋いだまま家を飛び出した。
杏(20分近く掛かる……間に合うのか。いや、既に…、ストーカーにでも入られたのか!早苗さんは……、)
杏寿郎が眉を顰めて車を走らせている頃、桜は必死にベッドと壁の間に手を入れてスマホを取ろうとしていた。
(ここら辺の筈なんだけど……、全然手に当たらない…!)
その時 指先がスマホに触れカタッと音が鳴る。
杏寿郎は反応があった事にハッとして再び桜に呼び掛けたが丁度その時桜のスマホの電池が切れてしまった。
まるで誰かに切られたかのような終わりに杏寿郎の頭は真っ白になってしまった。