第63章 久しぶりで初めてのデート
「あの、聞きたいことがあって…その、」
杏「ああ、今日話すと約束していたな。しかし約束をしておいて言う事ではないと分かっているが、今言っても意味が無いんだ。すまない。」
「…意味がない……。」
杏寿郎はすぐ次に水族館へ行く時の話をし始め、その話題をその会話だけで終わらせてしまった。
桜は当然もやもやとしたが杏寿郎の話が面白くてすぐに楽しそうに笑って話し始めた。
杏(良かった。夫婦であったと伝えてしまいたいが 桜には記憶が無い。リスキーだろう。それにいざ話してしまえば歯止めがきかなくなりそうだ。)
そんな事は露知らず、桜はマンションまで送ってもらうと迷いながらも車内でキスの動画を見せてしまった。
「こ、これ……何か知ってますか………?」
杏「…………………………。」
杏寿郎は酷く驚き動揺した。
そして暫く瞳を揺らしてそれを見ていたが『バランサーは意外にも甘いらしい。』と呟いた後、堪えられず桜にキスをしてしまった。
桜は目を見開いて驚いたが何故か拒めず、慣れたような杏寿郎の柔らかいキスを戸惑いつつも受け入れ続けた。
杏寿郎は辛そうな顔で薄く目を開けると固く目を瞑って赤くなっている桜を見つめてから顔を背けた。
杏「許可もなくすまない。行こう、早苗さんが待っている。」
表情を見せずに車を下りた杏寿郎を見て桜は少し不安そうに眉尻を下げたが、助手席に回ってきた杏寿郎はもう余裕のある笑みを浮かべていた。
そしてドアを開けると桜の頭を優しく撫でる。