第12章 それぞれの想い
「んー…!やっぱり人と一緒にご飯食べるっていいなあ…。」
そう言いながら頬張る顔は蕩けて、"美味しい" という感情をこれでもかと表していた。
槇「お前、警戒心というものはないのか。」
槇寿郎はまだ一回晩酌をしただけなのに、男の部屋でこんなにも無防備な顔をする桜を思わず心配した。
槇「どうやって育ったかは知らんが、男を甘く見すぎだ。女ならまず疑ってかかって接してもいいくらいだ。」
槇「俺だって成人した息子もいるし四十も超えたが、やはり男であることに変わりはない。若い者だけが危険というわけではないのだぞ。」
槇「俺も昔は……それなりに鍛えていた。その細い手で何ができる。もし俺が悪い男な…」
「それはないです。」
自分のお膳に視線を落として捲し立てていた槇寿郎は、桜の凛とした声に驚き顔を上げた。
だが、少し怒ったような顔がすぐふわっとした笑顔に変わる。
「私、分かります。"大丈夫な人"と、"大丈夫かもしれない人"の違い。」
槇寿郎は眉を顰めた。
槇「"危険かもしれない人" はどうした。」
それを聞くと桜は苦笑いした。
「危険かもしれない、けど大丈夫だと信じたい。これが"大丈夫かもしれない人"、です。」
槇寿郎は呆れて言葉が出なかった。
槇(その口ぶりから察すると、複数危険なやつに会っている。)
槇「お前は…、甘すぎる…。」
ようやく言葉を返したが、自分の気持ちをうまく表しきれなかった。
「…そうですね。ずっとそう言われてきた気がします。」
桜は少し微笑みながら箸をまた動かし始めた。