第12章 それぞれの想い
(……あ。)
桜は はたと足を止め、くるりと方向転換をした。
"うまい!!" と大声が聞こえてくる居間の前を忍び足で過ぎて、目的の部屋の前に座る。
「槇寿郎さん!一緒に朝ご飯食べましょう!」
桜は明るい声を出す。
槇寿郎はちょうど、千寿郎が持ってきたお膳に手を付けようとしたところだった。
槇「猫か。何故ここで食べる必要がある。」
槇寿郎は一旦箸を置き、不審そうな声色で訊いた。
槇(食事のときまで話しかけてこの娘に何の得がある。…自己満足の為に余計なお節介を焼くつもりか。)
槇寿郎はお酒が入っていない為、昨夜より警戒心が強かった。
「杏寿郎さんがいるから猫の姿になっちゃって居間じゃ食べられないんです!昨晩は一人で食べたのですが、寂しくて寂しくて…。」
「槇寿郎さんが入れてくれないならここで食べますよ。一人の部屋よりはましですから!襖越しでも話せますし!」
言い終わるのと同時に かちゃんとお膳を置く音がした。
「いただきま…」
槇「入れ!!」
強引な桜に呆気なく折れた槇寿郎は溜息をつきながら襖を開けた。
見ればやはり目をきらきらと輝かせた桜。
「ありがとうございます!ここに来てやっと人と温かいご飯を食べれる…!」
そう微笑む顔はふにゃっとしていて、やはり槇寿郎は毒気を抜かれたのだった。