第63章 久しぶりで初めてのデート
「……早く思い出したい…。あ、そうだ…。」
桜はここで杏寿郎が言っていた『40年も君がいない世で耐えた』という前世を思わせる言葉と動画について聞こうとしたが、スマホを取り出したところで固まってしまった。
(これ見せるの…とても勇気がいるなあ……。)
杏「どうした。遠慮しなくて良いぞ。」
「あっ!いえ…、もう少し、心に余裕ができたらお話しします……。」
杏寿郎はこれについては予想がつかずに心の中で只々首を傾げた。
それから2人は水族館の思い出についてお互いに話しながら品川へ向かったのだった。
―――
「本当に駅からすぐ近くなんですね。少し意外です…。」
杏「そうだな。それに22時まで営業していて家族連れよりも…、」
そう言いながら杏寿郎は行き着く先がチケット売り場とは思えないスピードでサクサクと進む列に並ぶ人達を軽く見渡す。
杏「男女でデートに来ている者が多いな。そういう層をターゲットにしているのだろう。ここを選んで良かった。」
「そ……ですね。」
桜が赤くなりながらも微笑むと、入場したあとに何気なく振り返った男が桜を見て立ち止まり頬を染めた。
すると杏寿郎は桜を抱き寄せ、男に向かって殺気を放つ。
男は肩を跳ねさせてから固まると少し機嫌を欠いた様子の彼女に手を引っ張られて去って行った。
杏寿郎はそれを見送ってから溜息をつき、体を離すと真っ赤な桜を見つめながら頭を撫でた。