第63章 久しぶりで初めてのデート
杏「そんな反応をしていては味をしめた俺にまたからかわれてしまうぞ!」
「え、ぁ……、」
桜は終始言い返せず、杏寿郎から見ても "大人の男性" を意識してドキドキし 感情を振り回されている様が手に取るように分かった。
その事実から優越感と愛おしさが溢れ 杏寿郎は自然と笑みを漏らす。
そしてその笑みがまた大人の余裕を思わせてしまう為に桜の心臓は休まらなかったのだった。
(何しても格好よくてすっごくドキドキする。それに優しいし、とっても大事にしてくれるし…。さすがに知り合ったばかりですぐにお付き合いは出来ないけれど前向きに考えたいな…。)
杏「そのような顔で何を考えているのか知りたいものだが…教えてくれるだろうか。」
杏寿郎の酷く甘く柔らかい声に桜は肩を震わせる。
男のその様な声を聞いた事がない桜はいっぱいいっぱいになってぎゅっと目を瞑った。
「あの………それは……、」
(とても言えない…『ドキドキするって考えてました』なんて……。)
黙ってしまった事を不思議に思った杏寿郎はチラッと視線を横に遣り、赤い顔で目を固く瞑って困っている桜に気が付くと笑いそうになるのをグッと堪えた。
杏「桜。好きな海の生き物は何だ。」
「…………え……?」
杏「俺はそうだな……ペンギンが好きだ。食べるときにこう、パタパタとしてしまうところが少し君に似ている。」
杏寿郎はハンドルを掴みながら左手の自由がきく指を『パタパタ』と動かしてペンギンの真似をしてみせた。
一方、桜は杏寿郎がさらっと話題を変えた事にほっとしつつも、自分ばかりが余裕を失くしている事に改めて気付かされた。