第12章 それぞれの想い
桜が走り出したとき…、
―――ヴンッ
(あああ…すごい既視感……!!)
やはりその影は数歩先で止まる。
杏「桜!おはよう!!」
「お、おはようございます…!」
(やっぱり杏寿郎さんだ…!車ですら目で追えるスピードなのに…。それに杏寿郎さんはもっと朝早くから鍛錬してたんだ…!私は弱いんだからもっともっともっと頑張らないと!!)
ぐっと眉をしかめてそう思うと、桜は杏寿郎を見上げてぎゅっと目を瞑った。
「私も!!杏寿郎さんに抜かされないくらい速くなります!!頑張ります!!!」
それを聞いて杏寿郎は少し驚いた顔をしたが、すぐににこっと笑う。
杏「うむ!!いい心掛けだ!!!」
気持ち良い程すんなりと意志を受け取ってもらえて、桜はぱあっと目を輝かせるとまた勢い良く走り出した。
―――
それから千寿郎が探しに来るまで、桜は杏寿郎にたくさん抜かれながらも必死に走った。
杏寿郎も感化されて素振りの鍛錬に移るのを忘れて走った。
その様子を見て、千寿郎は "二人っきりにすると止める人がいなくなるから危険だな…" と眉尻を下げたのだった。
――――――
(また…またしても千寿郎くんのお手伝いしなかった…居候の身なのに……。)
客間へお膳を運びながら、桜は情けなくて溜息をついた。
朝餉の準備の時間になったら鍛錬は切り上げるつもりだったのに、杏寿郎の熱血に影響されて桜は周りが見えなくなってしまったのだ。
(お守りについても訊き忘れちゃったし…どうも鍛錬になると必死になってるからか色々見落としちゃうな…。)