第63章 久しぶりで初めてのデート
「ふふ、食べている間はずっと続くのかな…可愛らしいなあ……。」
似たような言葉を桜が以前言った事を思い出した千寿郎は胸がきゅうっと痛くなったのを感じた。
千(でも全く覚えてない訳じゃないし、きっといつか思い出してくれる…。それに…、)
視線の先の桜は明らかに恋慕の情を抱いて杏寿郎を見つめていた。
千(やっぱり姉上は兄上に惹かれたんだ…。)
そう思うと千寿郎の頬は緩んでしまった。
それは杏寿郎と桜の微笑ましい空気を見ていた両親も同じで、本人達が知らぬ間に部屋は温かい雰囲気に包まれていたのだった。
杏「ご馳走様です!!」
「よく食べましたね…!でも流石にお昼は食べられないんじゃ…、」
杏「心配しなくて良い!丁度良い具合いだ!!」
「ふふ、気持ちのいい食べっぷりですね。」
瑠「あまりにも美味しそうで順番が前後してしまいましたが、どうぞお昼をお召し上がり下さい。…千寿郎。」
千「はい!」
「あっ………。」
桜は思わず先程の言葉を忘れて瑠火と千寿郎の手伝いをしに行きそうになったがなんとか踏み止まった。
そして槇寿郎と杏寿郎、桜の3人だけになると、槇寿郎は少しそわそわとし始める。
「……槇寿郎さ、」
槇「お義父さんでいい。瑠火のことはそう呼んでいただろう。」
「お、お義父さま、何か仰りたいことがあるのなら遠慮せず仰ってください。私、自分が記憶をなくしている事は知っていますし、思い出したいとも思っているんです。」
それを聞くと槇寿郎はパッと表情を明るくさせた。