第62章 エンカウント
(何者なんだろう…。あの動画のことも聞きたいけど二人きりにはなれなさそうだな……。)
「あ、あの…杏寿郎さん。」
杏「どうした。」
桜に掛ける杏寿郎の声色はどこまでも柔らかい。
桜はその声にすぐ赤面した。
「あとで連絡しても…いいですか。」
その言葉を聞くと杏寿郎は目を大きくした後 車を道の脇に寄せて停めた。
杏「勿論だ!!連絡先を書いておく、都合のつく時に連絡してくれ!何時でも…深夜でも早朝でも構わない!!」
そう言いながら取り出した手帳のページを一枚破り、連絡先を書くとすぐに桜に渡した。
桜はその様子に思わず笑みを浮かべる。
「分かりました。ありがとうございます。」
二人のやり取りを聞いている勇之も、見ている優介も、その空気感から何も言い出せなかった。
杏「着いたぞ。…本当に旅館は無くなってしまったのだな。」
小さな声でそう付け足すと杏寿郎は車を降り、助手席に回ってドアを開け わたわたとシートベルトと格闘している桜に手を伸ばした。