第12章 それぞれの想い
桜が杏寿郎の部屋を出て客間に帰った時、
―――「寒いッ!!!!!」
杏寿郎が大きな声を出した。
それと同時にぽんっと猫の姿になる。
(あれ…?ユキ…別に大丈夫だよ。)
そう胸の中に向かって言いながら ふわりと人の姿に戻る。
「でもどうして今…?さっきまでは人だったのに…。」
桜は眉を寄せて首を傾げた。
「…あっ!!」
桜は一つの心当たりに破顔する。
思わず座り込み両手で口を押さえてくつくつと笑った。
「ユキ…まさか今も寝起きが悪いの……??」
桜はそう言うと、緩む頬を両手で包む。
程よく暖かく気持ちのいい日は、よくユキに抱きついてお昼寝をした。
桜が寝ればユキも必ず釣られて寝た。
そして、ユキの寝起きの悪さは酷かった。
揺すっても、瞼を指で開かせても、尻尾を全力で引っ張っても起きないのだ。
でも一つだけ起こせる方法があった。
それは大声。
よく聞こえるユキの耳に口を近付け、一生懸命 "ユキさまーっ!!!" と大声を出すとユキは目を丸くして飛び起きるのだ。
寝るのが大好きな所も、目を丸くする神らしくない姿も、桜はとても好きだった。