第12章 それぞれの想い
まだ何かしたい気持ちはあったが、幾分か満足した桜は杏寿郎の部屋をあとにする事にした。
「杏寿郎さん、お布団ありがとう。風邪引いたら私に言ってね。治しますからね。」
そう言い、そっと暖かい色の髪を撫でてから廊下へ出た。
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桜が部屋を出てから一分と経たないうちに、杏寿郎はカッと目を開いた。
杏「寒いッ!!!!!」
パッと起き上がると自分が畳の上で寝ている事に気が付く。
杏(俺はなぜ畳にいる。)
敷き布団を触ると僅かに桜の温もりが残っている。
杏(桜は一晩ここに居たのか。妙だな。)
そう思うと眉を顰めた。
杏寿郎は普段から、鬼の活動時間である夜には深く眠らない。
昨日までは夢を見た事もない。
どれだけ無害な猫が相手でも、弟が相手でも、隣で寝返りをすれば杏寿郎の意識は浮上する。
それが昨夜は夢の後、一度も起きていない。
杏(俺は熟睡してしまったのか。)