第62章 エンカウント
男「それは………………この様な結末は……あんまりなのではないか…。君は……そうか、俺達は君の方が記憶を失くすなど想像もしていなかった……。」
「あ、あの……っ、私、一ノ瀬 桜と言います。あなたのお名前、聞きたいです。」
男は酷く落胆して小さな声で独り言を言っていたが そう言われると桜を改めて見つめた。
桜の瞳は輝き、頬は紅潮し、明らかに好意を持っているように見えた。
それを見ると男は笑みを取り戻す。
杏「……俺の名は煉獄 杏寿郎、26歳だ。此処から近い高校で歴史の教師をしている。今はすぐそこのマンションで独り暮らしをしていて、それから……、恋人はいないが想っている女性がいる。」
そう言って桜の髪を一束持ち上げると 杏寿郎はそこに口付けを落とした。
杏寿郎の容貌とその甘い仕草に女性陣は思わず声にならない黄色い悲鳴を上げる。
「…………こ、こういう事、慣れてるんですか…?」
杏「そう見えるか?初めてしたぞ。今はまだ君の額にする訳にはいかないからな。」
「今は……って…、」
満更でもなさそうに自身の熱い頬を両手で包む桜を杏寿郎が愛おしそうに目を細めて見つめていると、黙ってみていられなかった優介が近付いてきた。
優「会ったばかりで……名前も今伝えたばかりなのにおかしい。一ノ瀬さん、離れて。」
杏寿郎はその言葉を聞いて初めて桜から視線を外した。