第12章 それぞれの想い
桜はおそるおそる手を伸ばす。
まず鼻をつまんでみた。
微笑んでいる口が ぷはっと開くのを見たかったのだ。
だが、顔が真っ赤になって額に青筋が浮かんでも微笑んだまま動かない。
桜は怖くなって放した。
(あのまま摘んでたら死んじゃったんじゃ…。)
"この人は大丈夫なのかな" と心配になり桜は首を傾げる。
次に髪の毛を触ってみた。
(わ、やわらかい……。)
もみあげのところが長くて可愛い。
思い切って むんず、と掴んでみる。
それを鼻の下で交差させてそっと置いてみた。
すると杏寿郎の寝息で バッ!と髪の毛が空に舞い、ふわふわとゆっくり顔の脇へ落ちていく。
「………っ…!」
音は静かだったため不意打ちを食らった桜は笑いを堪えた。
(び、びっくりした…!すごい勢い…全集中の呼吸のせいなの?それとも杏寿郎さんだから?)
桜は男性なのに怖くない不思議な杏寿郎をついつい構いたくなってしまう。
気になってしまう。
それはまるで子供が猫の耳や尻尾を弄り回すような興味に似ていた。
"次は……" と、桜の手が空中で迷う。
くすぐってみようかと思ったが、何となく首から下に触れるのは恥ずかしくて断念した。
悩みながら両頬を軽く摘んでみる。
(わ……!やわらかい………!!)
桜は何となく "固そうだな" と思っていた。
摘むのをやめてふにふにと両手で両頬を揉む。
(う…気持ち良い……。)
思わず頬が緩む。
だが "これは触りすぎかな…起きちゃうかも" と、すぐに手を引いた。