第60章 決戦の日
杏寿郎は産屋敷邸に来ていた槇寿郎に泣きながら抱き締められると再び涙を溢した。
槇「よくやった…よくやった……!!」
杏「父上…、桜が……もう…、」
槇「行ったのか。……そうか。」
槇寿郎は一度表情を消したが すぐに眉尻を下げながらも微笑んだ。
槇「親子揃って妻を失うとは……安心しろ、お前は酒浸りになどさせん。…帰るぞ。鴉から決戦の連絡を聞いた千寿郎が必死に俺達の無事を願いながら待っている筈だ。」
杏「………………はい…。」
杏寿郎は噛み締めるように返事をするとぐいっと涙を拭い、兄の顔付きを取り戻した。
杏「千寿郎!!勝ったぞ!!!」
千「兄上ッ!!父上ッ!!お二人ともご無事で…!」
杏「うむ!!千寿郎の祈りが届いたようだ!桜も無傷で元の時代へ戻ることが出来たぞ!!」
千「そう…ですか……。」
槇「千寿郎に桜から伝言だ。大好き、ごはんが美味しかった、また姉になるから待ってろ…、」
杏「なかなか面白いですね。」
槇「俺もそう思ったのだがいざ訊かれると分からんと言っていた。ああ、それから 最初に出会えて良かった、泣かせてくれてありがとうとも言っていたな。」
千「………僕の方こそ…未来まで案じてくれて……、」
肝心の伝える相手が目の前に居なかった為、千寿郎は言葉を飲み込んだ。
千(姉上、ありがとうございます。僕の為に知識をくれて、兄上を守ってくれて…、本当に、本当に……、)
杏寿郎は泣きだしてしまった千寿郎を抱き上げると母親、瑠火の元へ向かう。
そして三人並んで手を合わせた。
杏(母上、やりましたよ。煉獄家の悲願、鬼殺隊の悲願を……俺の責務を…全うしました。)