第60章 決戦の日
「私、杏寿郎さんの笑顔を見てお別れしたいです。杏寿郎くん…、」
桜は皆に見られないようにそっと触れるだけの口付けをしてから額を合わせ、杏寿郎の右手に左手を添えた。
杏寿郎はその手を握るとなんとかぎこちない笑顔を浮かべる。
いつも笑顔でいる事が得意なはずの杏寿郎のそれがあまりにも悲しくて、嬉しくて、愛おしくて、桜は思わず笑ってしまった。
杏「こんな時にそこまで笑うとは…、」
「ごめんなさい…。好きだなあって思って。」
杏「俺だって君が堪らなく好きだ。必ず迎えに行く。待っていてくれ。必ずだぞ。」
その時、杏寿郎が抱えている体が不自然に軽くなり、同時に抱いている感覚も消えていく。
その感覚に杏寿郎の全身の毛が逆立った。
「杏寿郎さん。私も、あなたを―――…、」
―――コンッ
杏「………………………………………。」
しっかりと握っていた筈の左手も、なんとか微笑んでいた桜の顔も、言いかけた言葉を残して一瞬の内に消えてしまった。
それと同時に無惨の消滅を見届けた者達が歓喜の声を上げる。
それを聞きながらあまりにも呆気無い別れに呆然とした表情を浮かべる杏寿郎は音のした方へ視線を移した。