第11章 夢の中の人
杏「君は今回も起きないつもりなのか。」
目を覚まして欲しくて声を掛けるが女は起きない。
杏寿郎はその様子を見つめながらも、ふわふわとした気分で女の髪を梳く。
そしてまた頬を撫でた時、杏寿郎の視線が桜色の唇にうつった。
無意識に手を伸ばしそうになり、ぴたっと固まる。
杏(俺は何をしようと……。)
杏寿郎が自身の手を見つめて眉を寄せた時、女が動いた。
『…うー……。』
女は腕の中から出ようとしたのかもぞもぞと動き、杏寿郎の顎に頭突きをしてから止まった。
杏(む。顔が見えなくなってしまった。)
そう残念そうに眉尻を下げた時、首筋に女の息がかかり 杏寿郎の体がビクッと揺れる。
杏「…っ!」
すぐに女を引き離そうと肩に手を置いたが、首筋のぞくぞくとした刺激に頭が痺れると 引き離したくないという想いが湧いてしまった。
杏寿郎は自分の自制心は人一倍強いと自負していた。
恐怖も不安も自分の中で抑えてしっかり管理できた。
だが、今味わった感覚は色恋を避けてきた杏寿郎にとっては初めてのものだった。
そして何より、その感覚が連れてくる "征服したい" という荒っぽい欲が、こんなにも耐え難いものだったのかと動揺してしまう。