第58章 事件の裏側で
杏「約束を今のうちに増やしたい。俺は君に誓った通り、この先も君を想いながらこの家で家族と生きていく。その間 俺を支えてくれる君の欠片を置いていってくれ。」
「…………うん、分かった。」
桜は杏寿郎の心中を知ると大きな手を取って優しく握り、何が良いかと考えを巡らせた。
桜の言葉を聞いてほっとした笑みを見せた杏寿郎も考えるようにすぐ眉を寄せる。
杏「……君は自身の方が先に俺を好きになったと言ってくれたな。一番最初はどこに惹かれたのかを生まれ変わった俺に教えてくれないか。」
桜は少し頬を赤く染めながらもすぐに頷いた。
杏「あとはそうだな…、甘えて欲しい。」
「甘え……?今も十分、」
杏「いや、もっとだ。年上の特権を活かしたい。」
(…やっぱり年上前提……。)
運命を本当にそう決めてしまいそうな杏寿郎の意志の強さに 桜は真面目な会話中でなければ頬が緩んでしまうところであった。
「具体的にはどのように甘えたらいいのでしょうか?」
杏「我儘を言ってもらいたい。」
「わがまま…。……うん、分かった。」
(曲名、惹かれたところ、わがまま。曲名、惹かれたところ、わがまま…、歌舞伎、能、桜……、)
桜は頭の中で何度もそれを忘れないように繰り返した。