第58章 事件の裏側で
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杏「うむ、無事帰ったな!ご苦労だった!!ところで桜、確か君がホテルで弾いた曲名を来世で教えてもらう約束をしたな!」
「…?………しましたね。ただ今帰りました!」
帰って早々 唐突な話題を振られた桜は首を傾げた。
杏寿郎はもう片方の手を顎にやって質問を続ける。
杏「歌舞伎や能を見に行く約束もしたな。桜も見たいと言ったが…それは約束が果たされるまで君が此処に居てくれたらの話だな。果たす時が来世になる可能性もある。」
「………はい。」
杏「いや、それはそれで楽しみなのだが…そうだな、あとは、」
「きょ、杏寿郎くん。一体どうしたの?いきなり何を…?」
杏寿郎はそう言われると顎に手をやったまま桜に視線を移した。
杏「………もっと約束をしたい。増やしたいと思った。」
その声色から桜は杏寿郎がなんとなく焦っているように感じ、説明を求めるように首を傾げた。
すると杏寿郎は視線を外して眉を寄せる。
杏「嫌な予感がする。君は…、恐らく一年後此処には居ない。満開の桜を見ることも、葉桜の中の残った花を探して勝負をすることも、もう出来ない。」
「………な、何言って…、」
炭治郎が刀鍛冶の里に向かってから杏寿郎は嫌な胸騒ぎを覚えていた。
それは炭治郎の行動と結びついているとは気付けない程漠然とした物であったが、強い不安感は杏寿郎の胸を締め付けていたのだ。