第58章 事件の裏側で
槇(桜は煉獄家では少し猫被りをしているのではないか。間違っても杏寿郎や千寿郎に水を掛けたりはしないだろう。……杏寿郎に話したら自身にも掛けてほしいと言い出しかねないな。畳が駄目になる。黙っておかねば…。)
槇寿郎はそんな事を思いながら湯呑みに水を汲むと二人の元へ戻る。
桜が煉獄家に居る時も心底幸せそうにしている事は知っていたが、目の前の桜は幼い子供が同じ年齢の子供と遊んでいるような笑みを浮かべていた。
槇(杏寿郎に継子の指導をしなくてはならないという理由があって良かった。この顔は見せられない。)
槇「…成田さん、水を飲んだほうが良い。」
槇寿郎がそう言って湯呑みを手渡すと成田は笑顔のままそれを受け取って一口で飲み干し槇寿郎に礼を言って開発室へ向かおうとする。
槇寿郎はなんとかそれを止めると桜に『良いと言うまで壁を見ていろ』と言い、成田に着替えるように言った。
槇「あちらには濡らしてはいけない物があるのだろう。飲み物を持って入るなと張り紙がある。」
成「あ……そうか、僕自身が濡れているんでしたね。」
そう言いながら家と化している休憩室に置いてあった洗濯しているとは思えない乾いた服に手早く着替え、ソファに脱ぎ捨ててあった白衣を頭に乗せるとわしわしと髪を拭きながら桜に声を掛ける。
そのズボラさに桜は特に驚いた様子はなく、只々楽しそうに開発室へ入って行った。
槇(沙織がもし本当の娘だったのならあの男の元には嫁がせなかっただろう。)