第2章 大切な記憶
気が付くと不安から小走りになってしまっていて桜はハッとする。
歩調を緩めながら、"今日は楽しむんだ!" と言い聞かせて両頬を軽く叩いた。
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着付けをしてくれる着物屋に着くと、桜はやっと安心したように大きく息を吐いた。
(ここには…ほとんど女性しかいない……。)
着付けてもらっている間、すっかり安心した桜は鏡に映る自分を見て頬を緩ませた。
色は下から上に明るくなるようなグラデーションの赤。
全体に金糸が入り、華やかな雰囲気がある。
そして小さめの桜色や黄色、白色の花が裾に溜まるように降り注いでいた。
この繊細な花がとても綺麗で桜は特に気に入っている。
白地に淡い橙や紫、桜色の上品な模様が入った錦織の帯は華やかな形に出来上がり、着付けは終わった。
(結構高かったのに…お母さんありがとう…。たくさん着ないとだなあ……。)
そんな事を思いながら、ふわふわとした何とも幸せそうな笑顔を浮かべていると、すれ違った着付け担当の女性が微笑ましそうにくすくすと笑う。
その着物屋さんはそこそこの大きさがあり、さらに混んでいたので友達も何人か見かけた。
桜を見つけると皆パッと顔を明るくし、満面の笑みで手を振ってくれる。
桜もふわっと花のように笑って手を振り返し、"またあとでね!"と口をパクパクさせ、お店をあとにした。