第2章 大切な記憶
まだ早い時間に、華やかな振り袖姿でカロンカロンと音を立てながら歩く。
手には初めに着ていた服が入った鞄がある。
髪の毛も美容室でやってもらう友達が多かったが、桜は実家に向かっていた。
男性の美容師を避けたかったのもあるが、母が昔から桜の髪の毛をいじるのが好きだったのだ。
一緒に住んでいた頃は毎日結ってもらっていた。
(だから、今日も…。ううん、今日だからこそ結ってほしい……。)
どんな風に結ってくれるのかを考え、桜は にこにこしながら帽子を少し上げて前髪をいじる。
そうしてると大きな橋の上で強い風が吹き、帽子があっという間に飛んでいってしまった。
「……っ!!!」
外で帽子を取ったのは久しぶりだったので、頭に手をパシっと当てたまま 思わず固まってしまった。
―――ぱしゃんっ
「?」
頭をおさえたままの桜の耳に突如水音が響いた。
(…魚…?…跳ねたのかな……)