第57章 ※聞き分けとお返し
杏「……………………君が、甘露寺にか……?」
「……そうです…。」
杏寿郎の呆け具合いに桜は告白した事を早くも後悔した。
そして居心地悪そうに認めると覆い被さっている杏寿郎の視線から逃れるように横を向いた。
杏「桜…、顔を背けないでくれ。話し合おう。」
「まだこのままが良いです。」
杏「駄目だ。」
杏寿郎はそう言うと桜の顔にかかった髪を梳いて耳に掛け、顔を正面に戻すように頬に手を当てる。
しかし桜は首を横に振った。
「話し合いはするから…。まだ顔は待って下さい。」
杏「…………………………。」
杏寿郎はそれに答えなかったが手は離した。
そして片肘と足でバランスを取ると空いた片腕で桜を抱き締め髪に顔を埋める。
杏「君は確かに自身も嫉妬をすると言ってはいたが、俺からすればそれは少ないように感じていた。だが少ないのではなく自身の中に留めているだけだったのだな。植草に関しても……『相手を知れば嫉妬しなくなるかもしれない』と言っていたが、それは……、」
「そうすれば…辛さが和らぐからです。杏寿郎くんの相手が私の好きな人なら…まだ耐えられるから…。」
杏寿郎はそれを聞くと謝るように抱き締める腕に力を込めた。