第57章 ※聞き分けとお返し
二度目の口付けは防げなかった。
杏寿郎が不意を突いた訳ではない。
只々桜が無意識にそれを欲してしまい、蕩けた頭で杏寿郎を受け入れてしまったのだ。
すると目に見えて杏寿郎の機嫌が良くなる。
口を解放すると見つめ返す桜の頬を愛おしげに撫でた。
杏「うむ。素直な君は本当に愛らしい。」
「…あ…………ち、ちが…、」
杏「違わないぞ。君は俺を求めた。どうだ、求める男は俺一人で十分だろう。それともまだ『実弥さんがいるから』などと言うのか。」
「それとこれは別の話です。さね…不死川さんに口付けなんてしたいと思わない。そうじゃなくて精神的に支えてもら、」
杏「俺が支える。」
「だって…嫉妬させたいのでしょう……?私は杏寿郎さんが好きだから…辛いんです。」
杏「君の事しか見ていない。辛く思う必要など、」
「じゃ、じゃあ…!」
桜は杏寿郎に食い下がられ続けられるとずっと胸に秘めていた事を吐き出したくなってしまった。
「本当は………蜜璃ちゃんにさえ嫉妬してるって言われたらどう思いますか…。ここに一緒に暮らした過去があるというだけで…、あの隊服姿を何度も見たというだけで、二人のことが好きなのに…それなのに辛いんです…!他の隊士さんの事なんて…もってのほかの事だったんです…!!」
その予想外の秘めた感情を知り、杏寿郎は固まってしまった。