第56章 戦いを終えて
千「贈り物をしたい気持ちの分、髪の毛の他にもお守りに縁起の良い物や兄上が喜ぶ物をたくさん入れてみてはどうでしょう?蛙の形をした物や…、姉上の手紙など…、」
(蛙…?あ、無事に "帰る" と掛けてるのね…。女性からの贈り物が一般的でないのなら確かにお守りに力を入れた方がいいのかな。)
「うん…!そうしてみる!」
桜はそう微笑むと早速 千寿郎に勉強を教える代わりに自身は字を習い始めた。
千「姉上、字がお上手ですね。」
「う、ううん!カチッとした文字しか書けないの…!こう…繋がった文字は格好いいと思うのだけれど書ける気も読める気もしないよー…。」
桜はそう言いながらつらつらと繋がる文字を表現するように指を踊らせる。
千寿郎はその様子を少し可笑しそうに見ていた。
千「未来では繋げた文字は一般的ではないのでしょうか?」
「うん。普通の生活の中ではまず見なかったなあ。漢字の形も少し違うものが多いし…。」
そう言うと桜は今日あった出来事を思い付くまま書いていく。
「『今日は杏寿郎さんの提案で皆の前でお箏を弾きました。突然の事だったので緊張しましたが皆優しく褒めてくれてとても安心しました。』……こんな感じだよ。」
千「……わあ。全然違う。姉上が今の時代の手紙を読めないのも無理はないですね。兄上にはこちらの文字で書かれた方が喜ばれるのではないでしょうか……?より姉上らしさを感じるような気がします。」
「そう……なのかな…。」
そう言うと桜は特に意味のない自身の文字に目を落とした。
(確かにこっちの方が気持ちを込めて手紙を書けるかも…。)
「うん…。そうだね、そうするよ。」
それから二人は手紙の内容は桜が一人で決めることにし、勉強の続きを始めた。