第56章 戦いを終えて
(伊之助くん、お饅頭につられたのかな。音楽には興味なさそう。)
桜はお饅頭を一心不乱に食べている伊之助を見て笑みを漏らすと杏寿郎が置いてくれた箏の前に膝をつき、平調子に調弦していく。
(槇寿郎さんがいるなら平調子で弾ける基本的な曲がいいよね……やっぱり無難に "六段の調" にしよう。)
調弦が終わると桜は改めて部屋を見渡した。
炭治郎と槇寿郎が居間に一緒にいる光景は新鮮であった。
(これを機にご飯も一緒にここで食べられるといいな。)
桜が弾き始めると伊之助以外は動きを止めて桜に魅入った。
しかし曲の後半、音が増えてくると伊之助も様々な動きをする桜の左右の手を見つめ始める。
そして――、
―――ギィ
桜は聞き覚えのある音と共に千寿郎と槇寿郎が僅かに緊張したのを感じた。
(禰豆子ちゃんが出てきたんだ。やっと会えた。 )
そう思いながら微笑みを浮かべる。
その柔らかい表情を見ると千寿郎と槇寿郎は自然と警戒を解き、再び耳を澄ませた。