第56章 戦いを終えて
「ただ…、あの……、優しいときの出来事とかを…教えていただけで…、」
杏「それにしては随分と慌てていた。君が隠し事をするとは考えたくないが、それを言い難そうにしていたと思うには無理があるぞ。……俺を信用出来ないのだろうか。」
杏寿郎がここぞとばかりに彼らしからぬしおらしい声を出すと、桜は俯いたまま手のひらをぎゅっと握って思い切った様な声を出す。
「きょ…、杏寿郎さんの……っ、好きな所、とか…、いわゆる惚気話というものを………、したり…、」
そう言いながら桜はおずおずと視線を上げて杏寿郎の表情を確認し、そして固まった。
杏「そうか!!惚気ていたのか!!!相変わらず愛いな、君は!!どの様に惚気ていたのか訊いても良いだろうか!!!」
そう大きな声を出す杏寿郎はしおらしさなど微塵も無い太陽のような笑みを浮かべている。
桜は目を見開いて固まった後 眉尻を下げて涙を滲ませた。
「だ、だめに決まってます!!い、意地悪な杏寿郎さんは きら、んむっ」
杏「すまなかった!!それ以上は言わないでくれ、頼む。」
『嫌いです』と言い切られるより前に杏寿郎は桜の口を大きな手で覆った。
すると桜の顔は余裕の無いものから徐々に不満そうなものへと変わっていく。