第11章 夢の中の人
杏「酒を楽しそうに…それも一人ではなく二人で、か。桜のおかげで父上の笑顔を見れた。ありがとう。」
そういう声は本当に柔らかく、嬉しいという感情がよく伝わってきた。
(あ…この人は自分ではなく父親の事を考えて今の質問をしたんだ…。)
"やっぱり心が綺麗な人だなあ…。" と桜が感心していると、二人の後ろを歩いてた千寿郎が驚いた声を上げる。
千「父上の笑顔ですか!?」
「……あっ!え!?槇寿郎さん笑ったの!?」
杏寿郎は二人の声を聞いて立ち止まると桜を降ろした。
そして二人に向き直ってからしゃがむと、
杏「ああ!一瞬だったが確かに見た!!」
そう力強く言い、心底嬉しそうな笑顔を浮かべた。
当然、桜はとても喜んだが、千寿郎にとっては強い衝撃だった。
桜を客間に送り、杏寿郎も自室へ戻ろうとすると千寿郎はやっとハッと我に返り、
千「お風呂の湯を沸かしてきます!」
と言って走っていった。
その後ろ姿を杏寿郎は少し眉尻を下げて見つめた。
杏(千寿郎は父上の笑顔など想像もできないのかもしれないな。)
そう思いながら羽織りを脱ぎ、刀をベルトから外すと床に置く。
隊服のまま台所へ行けば千寿郎が用意してくれたと思われる握り飯がある。
杏(出来た弟だ。)
杏寿郎はそう思いながら目を細めて頬張った。