第11章 夢の中の人
桜は客間の真ん中で悩んでいた。
(猫になれば筋肉痛、人に戻れば振り袖…。)
襦袢で寝るのが正解だったのだが、桜は知識がなくて襦袢だけになるのを恥ずかしく感じていた。
(リラックスできない…。)
桜は机に肘をついて手に顎を乗せると、小さくため息をついた。
(でも、お母さんの形見を着るのは抵抗ありすぎるしなあ…。)
桜はとにかく身の回りの物が足りなくて不安になる。
(当たり前だよね、身一つで来たんだもの……身一つ………?)
「…あっ!鞄!!」
桜はバッと客間を見渡す。
隅にはすっかり忘れ去られていた鞄があった。
それを見て急いで駆け寄る。
その鞄は洋服一式を入れられるくらいの収納力があったが、その割にコンパクトに見えるので普段にも使っているものだった。
「コート、靴。鍵とパスケースは使えないなあ…。」
上の方にあった服類を畳の上に置く。
それを じっと見て首を傾げてから桜はハッとする。
(そ、そうだ…!洋服があったんだった!)
そう思うと目をぎゅっと瞑ってユキにお願いをする。
すぐに体がふっと軽くなり、桜はようやくほっとした。
(ユキ……、今日は本当にたくさん助けてくれたね…ありがとう…。あ、それからこの洋服は私が頼んだときだけね!)
そう話しかけると胸がぽかぽかと温かくなる。
それを感じて桜はくすくすと笑った。