第10章 お見送りとお父さん
ふわっと人の姿に戻ると黙っている槇寿郎の顔を覗き込む。
その視線に気が付いて槇寿郎は口を開いた。
槇「…その友人は…何者だ?」
「……………元、神様です。」
槇「神…。」
槇寿郎の表情筋は機能しなくなる。
「はい。信じられないでしょうが全部真実です。お酒と共にするっと飲み込んで下さい!…おちょこ空いてますよ、お注ぎします。」
桜は、何て事のない雑談を楽しくしながら晩酌をしたくてここへ来たので、この話題を早く終わらせたかった。
槇寿郎は眉を寄せつつもおちょこを差し出す。
桜はそんな槇寿郎を少し拗ねた顔で覗き込んだ。
槇「……まあ…何にせよ俺の常識を超える事だ。考えても仕方ない、な。」
そう言うと言われた通り、桜が言ったことを飲み込むように槇寿郎はお酒を飲み干した。
それを見て桜は少し意外そうに目を大きくする。
槇「だが…、なぜ杏寿郎には言わない?」
そう言う槇寿郎は先ほどとは違い、純粋に興味だけで訊いているようだった。
「それが……、杏寿郎さんの前だと必ず猫の姿になっちゃうんですよ。説明しようとはしたのですが、人の姿で会えないのならわざわざ言わなくてもいいかな、と。」
槇「そうか。」
短く答えた声は何故かどことなく愉快そうだった。
やっと空気が柔らかくなり、好きなおつまみ、好きなごはん、わっしょいについて…槇寿郎の口数は少なかったが、話しながら晩酌をした。
槇「お前は食べ物の話ばかりするな。」
槇寿郎が意地悪い声を出したときだった。
―――ぽんっ
突如、軽い音が響いた。