第10章 お見送りとお父さん
あの不思議な猫の姿が本来のものだと思っていた槇寿郎は、意外な返答におちょこから口を離した。
槇「人?猫に化けられる人など聞いたことがない。何故挨拶の時に猫の姿だったんだ?わざわざ化ける必要はないだろう。千寿郎も知っているのか?」
槇寿郎は次々に湧いてくる疑問を桜にぶつけた。
桜はおちょこを脇に置くと、ぽんっと音を立てて一度猫の姿になる。
「この大きな白猫は私の友達の姿なんですよ。その友達は過保護で、私が緊張すると守るように自分の体を貸すんです。…たぶん。借りたいってこちらから言っても今みたいに貸してくれます。」
「千寿郎くんは知ってますよ。でも杏寿郎さんは知りません。」
桜は自分で言っておきながらも "嘘くさい話だな" と思う。
(でも………、)
槇寿郎は姿を変える非現実的な女を自身の目で確かに見たのだ。
(人が猫に化けたのか、猫が人に化けたのかについては証明できないけれど、実際に見ちゃえば信じる気は起きる、よね…?)