第10章 お見送りとお父さん
槇「お前は何だ?」
槇寿郎は酒を注いでやりながらストレートにそう訊くと、桜は一度きょとんとする。
"誰だ" 、ではなく、"何だ" 。
その意味が大きく違うことなど抜けている桜でも分かる。
名前を訊かれたわけではない。そうなると、思い当たるのは―――…
ほろ酔いの桜は、ゆっくりと振袖姿の自分を見下ろす。
そして一度考えるのをやめた。
答えずに注がれたばかりのおちょこをぐいっと一気に飲んで空にすると、ゆっくりと目を閉じる。
大きく深呼吸したあともう一度目を開くと、
(……………私らしい。)
少し遠いところを見つめながらそう思った。
だが、すぐにハッとしてふるふると頭を振る。
(どう考えても誤魔化せない…ううん、そもそも誤魔化す必要はないや…。)
幸い、お酒の力でリラックスしていた桜は、一瞬思考は止まったものの あまり動揺はしなかった。
そんな桜の様子を見ながら、何も言わずに槇寿郎は手酌する。
「……私は元々人なんです。」
桜は切り出した。