第55章 遊郭に巣食う鬼
「は、はい…。」
良「売りに来たあの旦那はその夫から……お前を問答無用で攫ったとでも言うのかい?」
「はい。」
桜が真顔で即答し、更に杏寿郎がしっかりと指輪をしているのを見ると女将はほっとしたように息をつき、桜を大事そうに抱えたままの杏寿郎を案内し始めた。
―――
「杏寿郎さん、悠長にお部屋を借りてお話ししてる場合じゃありません。ここ、鬼がいるところです。宇髄さんの長期任務まだ終わってなかったんですよ。十二鬼月かもしれません。」
案内された立派な部屋で桜が鬼に聞こえないようにそうこっそりと伝えたが、杏寿郎は返事をせずに再び桜を抱いて廊下に出た。
「……………?」
杏「俺は足を運んだ事がないので話に聞く程度の知識しかないが…よくよく聞くと良い。」
「…え……?」
言われた通り耳を澄ますと通り過ぎる部屋から聞こえるのは男女の情事の声。
「………………っ……!!」
杏「君は知識が足らなさ過ぎる。此処はこういった店だぞ。そんな格好をさせられて…よく無事だったな。」
真っ赤になって俯く色っぽい桜を見ると杏寿郎は眉を顰めて目を逸らした。