第55章 遊郭に巣食う鬼
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その頃、杏寿郎は任務に出ていた。
昼過ぎにケンタから受け取った報せは『桜は天元の任務に炭治郎達と共に同行することになった』という内容だった。
杏寿郎は『任務同行の担当が天元に変わったという事なのか』、『天元の長期任務は終わったのか』について確かめなければならないと判断すると桜達を追い掛けようとしたが、その時 遠い場所の任務を要が持ってきたのだ。
杏(今から任務地へ向かわなければ日が沈む前に聞き込みを出来ない。桜…、)
杏寿郎は眉を顰めるも柱と継子が三人も側にいる事から桜の件を後回しにせざるを得なかった。
そして今相手にしている鬼は桜が居ない任務の為か、久しぶりに厄介な鬼であった。
杏(なるべく怪我人を出さない様に…、)
杏「…伏せろ!!!」
杏寿郎はお荷物状態になっている他の隊士を過度に庇いながら苦戦し、とうとう自らが盾となって背中に傷を負った。
傷を見て心を痛める桜の影響で 隊士達に少しでも怪我をさせないようにと無意識のうちに過敏になってしまっていたのだ。
隊「炎柱様…っ!!」
杏「大丈夫だ。皆は下がっていてくれ!」
隊「し、しかし…、」
杏「俺の為を想ってくれるのなら今すぐ鬼の手が届かない所まで走ってくれ!!!」
隊「…は、はいッ!!!」
一騎打ちとなれば杏寿郎の相手ではなかった。
呆気ない程すぐに鬼を討ち取ると背中の深い傷による失血から片膝をつく杏寿郎に隠が駆け寄る。
杏(桜の元へ行かなければ。)
杏「…大丈夫だ、一人で立てる。では、行かねばならない所があるのでこれで失礼する。」
隠「いけません!炎柱様、一度蝶屋敷へお寄り下さい!!このままでは倒れてしまわれます!!」
杏「本当に大丈夫だ。この程度なら自身で止血できるので気に病まないでくれ。」
そう言うと胸の石の温度を頼りに杏寿郎は走り出した。