第55章 遊郭に巣食う鬼
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良「うんうん、素敵だわ。若々しい華やかな色がよく似合っている。桜は初心な雰囲気を売りにしましょう。」
「そ、その事なのですが…あの、どうしてもお客様の前に出なくてはだめですか…?」
良「…えっ!?稼ぎたくないのかい?」
消極的だとは思っていたが、売られた分際でそうはっきりと言われると良子は目を丸くさせた。
「あの…はい。正直に言うと私、ちゃんと夫がいるんです。指輪も隠してますが持ってて…、もう少ししたら迎えに来てくれると思うんです。それまでは雑用でも何でもします。なのでお客様だけはつけないでもらえませんか…?」
それを聞いて良子は桜が何らかの理由で夫かその家族に売られた良家の可哀想なお嬢さんなのだと結論付けた。
良(でも売られたという事は………。この子はまだ前の夫を想っているようだけれど、ここで生きていくのなら忘れるのが一番だわ。)
良「…いいかい、桜。よくお聞き。お前の夫は来ないんだよ。ここへ桜を連れて来た宇髄という旦那がいたでしょう。あの旦那が夫の知り合いならば尚更だよ。夫はここへお前が連れて来られることを知っていたんだ。だから…、来ないんだよ。」
「…え…………?宇髄さんは確かに杏寿郎さんのご友人ですが…。二人はもう連絡を…?女将さんは何か知っているのですか?」
良子は夫と売りに来た男が友人である事を知ると 更に憐れむような目を向けながら桜の為に嘘をつこうと決めた。