第55章 遊郭に巣食う鬼
天「荻本屋さん!そりゃありがたい!だけどこっちの娘はまだ待って下さい。」
天『桜、顔伏せてろ。』
天元は表情を変えないまま低くそう呟く。
桜は慌てて俯きながらも横目で天元の口元を盗み見ていた。
(……いま口、動かなかった。)
天「この娘、ずっとだんまりを決め込んでいて困ってるんですよ。ただ黙っているだけなら良いんですが、どうやら耳が聞こえない可能性が出てきまして…。」
女「うーん、仕事柄耳が聞こえないのは確かに困るね。ただだんまりを決め込んでいるだけだと分かったらうちへ連れてきておくれ。」
天「はい!達者でな、猪子ー。」
天元が手を振り、伊之助が見えなくなると桜は涙滲む顔を勢い良く上げる。
「う、宇髄さまぁ…っ!ありがとうございます…っ!!」
天「おうおう!好きなだけ俺を崇め讃えろ!!」
元凶が天元にある事を忘れ、桜は得意気な天元に感謝し続けた。
その様子を炭治郎と善逸が眉尻を下げながら見守る。