第54章 嵐前の日常
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それから合同任務に当たる度に桜が体を張り、結婚指輪をちらつかせていると薫との噂は嘘の様に消え去った。
そして桜は甘える事が増えた千寿郎を精一杯可愛がりながら過ごした。
また、お館様は隊士全員へ向けて癒猫様と桜についての厳重な口止めをして下さり、命を落とす筈だったであろう隊士達は顔を布で隠して戦うようになった。
そして、桜は特に指示が出なかった為 杏寿郎の任務に同行し続けていたのだった。
「杏寿郎くん、髪の毛がもさもさしてる。梅雨だねえ。いつもより埋めがいがある。顔が幸せ。気持ちいい。」
杏「そうか!確かに言われてみればいつもより纏まりが悪いな。うむ、今日は一つ結びにす、」
「だ、だめっ!!……あっ、いえ…、気持ちがいいから…縛らないほうがいいかな…って……。」
桜はそう取り繕ったが、杏寿郎は以前『一つに結った姿を他の者に見せないで欲しい』と願われた事を思い出し眩い笑顔を浮かべた。
杏「分かった!ではいつも通りの髪型にするとしよう!!」
その言葉に桜が安堵している様子を見ると杏寿郎は更に口角を上げた。